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江戸時代の将棋事情

さきごろ、藤井聡太王位が牧之原市でのイベントで、地元から寄せられた文化年間に書かれた詰将棋の古写本をその場であっさり解いたことが話題になりました。しかも不完全な作品を余詰めのない形に改作し、不要な駒の配置まで指摘するなど、詰将棋選手権5連覇の実力をいかんなく発揮されました。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/354025
東京新聞 藤井王位が解いた200年前の詰将棋

作品そのものは、筆者にも2日ぐらいいただければ解けるもの(記事中にヒントがあったので、15分で解けたことは内緒!)ですが、その意外な手筋を見るに、江戸時代にすでに詰将棋は相当なレベルに達していたことがわかります。

そんな様子がわかる江戸期の版本を過日入手しました。タイトルは『象戯懐宗』、寛延4年の序文がついています(「象戯」とは、しょうぎ、と読み、つまり将棋のこと。中将棋には「酔象」という駒もある)。
その序文にいわく、
「古えより今に至るまで将棋の世に行わるる老幼尊卑、翫らざるは無し。故に指方作物を著せる諸書多しと言へども、実指南ともすべきは無し。」
将棋は老いも若きも、高貴なものもそうでないものも皆が好むが、詰将棋(作り物)の本はたくさんあるのに、実戦用の指南書はない、と嘆いています。当時の出版事情として、将棋の本といえば詰将棋の本であった、すなわち、詰将棋ファンも大勢存在していたことの証左であります。

今日でも、「詰将棋パラダイス」という詰将棋投稿雑誌が長年にわたり多数の読者に支持され、また、初心の人向けには、浦野真彦八段著の『1・3・5手詰ハンドブック』があって、いまだロングセラー街道驀進中です。

さて、手元にある『象戯懐宗』ですが、序文の続きには、そんな現状をなげいて、大坂の名門、福島(万兵衛)氏の秘蔵の定跡書を出版したと、あります。全28の定跡(平手14、右香落ち3、左香落ち2、角落ち3、飛車落ち4、飛角落ち2)が、図面入りで紹介されています。いまどきの解説書のような分岐局面は書いていませんが、みな対局で力を鍛えていた時代に、光明が差し込むような本であったと思います。
戦法も、四間飛車・向飛車・石田流の振り飛車、囲いも矢倉・雁木・美濃、などバリエーションを揃えています。相掛かり・横歩取り、中住まいが無いのは時代のせいなのかもしれません。もちろん穴熊もないです。

将棋の本は、あまり積極的に買ってはきていないのですが、これを切っ掛けに、地味に棋書を集めていきたいと思いますので、15年後ぐらいを楽しみにお待ちくださいませ。

其中堂 三浦

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